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月夜の晩の事でした。 「火事だ、火事だぁ!」 という叫びを聞いてわたしがかけつけた時、火はすでに家全体を覆っていました。 騒ぎを聞いて集まったひとびとは呆然と立ち尽くして、ただただ見守るばかり。 昔むかし、絵描きの家が火事になった時、家を飲み込み立ちのぼる炎に魅入られて、絵描きは我が家が焼け落ちるまで我を忘れて炎を描き続けた。 そんな話を聞いた事があります。 火は魔物です。 いつしかわたしも炎に心を奪われておりました。 火がわたしを誘うのです。 微笑みながら怪しげなダンスで手招きするのです。 こんな胸の高まりは今まで一度だって経験したことはありませんでした。 火は猛り狂っているのに時間は完全に止まり、渦を巻く炎は静止した空間に絡み付き、わたしに絡み付き、それら全てを融合して空高く登り続けます。 わたしは身の置き所のない不安感に包まれながらも誘惑に抗しきれず炎に踊らされておりました。 その時です。 「水だ−! 水もって来ーい!」 その声に一瞬わたしははっと我に返りました。 炎の家の主、木兵衛さんです。 火の勢いの増す我が家を前に慌てふためき、悲痛な声で人だかりに叫び続けています。 わたしも急いで桶を捜し水をかけ始めましたが勢いづいた火の前にはなんの効果もありません。 こぼれた水で地面はビショビショ。 かろうじて火に到達した水はあたかも炎の演舞を囃し立てる力水のごとく、火は増々猛り狂うばかり。 その時です。 「金が、金がなーい!!」 またまた木兵衛さんが叫びました。 家から持ち出した大事な財産を落としてしまったらしいのです。 命の次に大事なお金です。 家がだめでも金さえあれば大丈夫、そんな虎の子。 木兵衛さんは地面に這いつくばって探しています。 それとは対照的に人々は何かに取り憑かれたように、ただただ水をかけ続けています。 火を消し止めようというよりは、もはや炎と一体になって恍惚のダンスに酔い痴れているに違いありません。 どれぐらいの時を経たでしょうか。 ようやく炎も下火になり家も焼け落ちた頃、 「あったー!!」 またまたまた木兵衛さんの叫びが・・・。 人間の執念とは恐ろしいものです。 あの混乱の中、なんと水浸しで泥だらけになった虎の子を見つけ出したのです。 家が焼け落ちた悲しみの中にも大事な虎の子を探し出せた泥まみれの安堵の顔。 それはダンスを終えてなお夢から覚めやらぬ群衆の中でひときわ照り輝いておりました。 まるで祭りのあとのような虚脱した満足感に包まれて・・・。 あれからどれくらいの月日が流れたでしょうか。 はるか昔の出来事です。 あれは夢だったのかうつつだったのかはたまたまぼろしだったのか、わたしの中でももはや定かではなくなってしまいました。 しかしいつの頃か子供たちがこんな囃し歌を歌っていたのが記憶の片隅には残っています。 月夜の晩に 火事がいて 水持って来いと 木兵衛さん 金玉落として 土ろだらけ 画用紙、鉛筆、墨、455×535mm
by atelier-poeta
| 2011-07-31 23:55
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