今
彼の右手の中にある
このちっぽけないっこの小石が
たった今まで
(何億年も前から)
砂浜で水平線を眺めていたことは
だれも気づくはずはない
もしもあの時
足下で乱反射する七色の光に呼び止められなければ
彼は小石に気づくこともなく
永遠に続く海岸の誘いのままに
水に消される足跡を残す作業をひたすら続けていたことだろう
今
彼の手の中で
小石に描かれたこの海は
水平線を際立たせて彼の足を止め
今まで見たこともない波のパフォーマンスを繰り返している
そこに広がる虚無の海に
人間はひとり立ちつくして宣言する
「いっさいは始まったのである」
画用紙、鉛筆、墨、535×455mm